INTERNSHIP×大学

【INTERNSHIP×大学①】日本初の経営専門職学科は20単位のインターンシップが必修(後編)

中編では名古屋産業大学経営専門職学科のインターンシップについて聞いたが、最後にこれからのインターンシップについて聞いた。(聞き手:Mirai Ship PROJECT 主宰 眞野目悠太)

-これからのインターンシップはどのようになると思いますか

今永: いくつかの方向へ拡がって行くと思いますが、一つの方向性は学年別に設計されたインターンシップが増えると思います。特に初年次でのインターンシップは効果があり、大学生の早い段階であればあるほど良いと思っています。私たちの学科では、2年生の夏休みに最初のインターンシップを体験することをお話ししましたが、初年次から実習の講義とキャリアに関連する講義を踏まえて、企業で実践する中で働くことの意味や意義を体感することを目的としています。大学生は一般的に、親や先生やアルバイト先などの限られた範囲での社会との繋がりしかないことから、接する世界を広げることが必要です。その上で3年生、4年生と社会に出る前には、職業上のスキルを身につけ、生活習慣やマナーを身につけておくことが必要となります。この順序やマインドセット、徐々に成長を遂げていく制度設計が大事で、逆だと学生が社会に出るのを恐れるような失敗が生まれ、企業とうまく協働・共創できないなどの歪みが生じてしまいます。

-インターンシップの体験プロセスですね。私たちもそれは必要だと思っていて、色々なところで提言しています。もっと学年別のインターンシップの設計をすべきだと。しかし、現状は学年別や複数回を組み合わせた体験プロセスを多くの大学が描けていません

今永:今はまだ0か1かの議論をされているのだと思います。インターンシップは就労体験という言葉で示されることもあり、「体験」が一度あれば良いと思っている方も多くいます。
働いたことのある方々ならわかると思いますが、仕事を覚えるまでには、失敗や経験の連続で、一定期間は身にならない経験が思い出されるのではないでしょうか(笑)
さらに今は、世の中の雇用状況を見れば終身雇用が減少し、社会人はいくつかの企業を移りゆくキャリアが一般的になってきています。そうした時代の中では、自分のスキルや価値観を理解することが大切で、将来の自分のキャリアを自分でデザインする主体的な働き方が求められていきます。それは大学での学び方、インターンシップに関しても同じで、複数の仕事を体験した方が、そして深い経験をした方が、将来を描きやすいですよね。しかし、学生が卒業した後にどのようなキャリアを描くのか、どのような情報があればより良い人生の選択ができるのかといったことまでは個別性も強すぎて、時代の変化の波も早く、大学では追いついていない限界があると思います。しかし、こうしたことに問題意識を持つ教職員もいます。あとは大学としての姿勢の問題もあるかもしれません。個別の学生にオーダーメードで寄り添って実践するのはマンモス大学では難しいですが、専門職大学の仕組みでは40人の少人数教育であるため、学科の立ち上げ時から、少数精鋭の教員で正面から議論して取り組むことができ、学内で意思統一できたことが良かったです。

(今永典秀/名古屋産業大学現代ビジネス学部経営専門職学科准教授、地域連携センター長)

 

-インターンシップを担当している教職員と話すと、学内に話しを通すのが難しいというのをよく聞きます。だから個人活動になりがちで、全体としての運営となっていない。それに教育は大学の中だけで完結すると思っている方もいまだに多い

今永:それはインターンシップをそれぞれが勝手な思い込みで定義していたり、インターンシップの扱いがあまり市民権を得られず下に見られていたりと言った難しい問題があるように思います。新しいタイプの教育、学外での実践教育なので、学内中心の今までのものとは違いますから、批判の矛先になりがちなのは仕方のない気はします。また、教職員にとっても、学外の企業との調整は今までになかった仕事や経験であるため、学生のために素晴らしいのはわかるが、自分はやれない、やりたくない、避けたいという声もよく聞きます(笑)
さらに根深いのは、組織間の連携の壁の存在です。教員と職員の分担や、部署間の関係などが、いわゆる縦割り組織の弊害のような形がよく現れてしまいます。一般論ですが、例えばキャリアセンターが主導するのか?学部が主導するのか?両方でやるのか?その場合の共通ルールや個別ルールは?などの無駄が生じたり、責任の所在が明確でなく、他人事になってしまうことなど、縦割り型の組織ではよく起こる問題です。
しかし、学生にとっては学外で実践経験ができるインターンシップには変わりありません。組織や個人の思惑ではなく、学生ファーストの視点で実行に移すことが大切なのですが、これも、組織の中の属人的な問題や、規模が大きくなると組織間の調整工数も増えて、難しくなるジレンマが構造的に存在すると思います。ところが、全国の大学でも組織の論理を超えるような、スーパーマンのような存在がいるはずですし、素晴らしい事例も出てきています。

-それはどのような事例ですか

今永:インターンシップの本のコラムにも掲載させて頂いたのですが、市長のカバン持ちのインターンシップを実施した事例があります。その方は岐阜大学の髙木朗義教授で、防災やまちづくりを専門としている先生なのですが、地域の企業やキーマンと連携して、まちづくりの実践的な授業を実施されています。民間企業での勤務経験もありますが、「インターンシップは学生のものという固定概念を壊して、いくつになっても、どんな立場になっても、学び続けること」を目的の一つに、インターンシップをされたのです。しかも合計29日間。50代の研究者でもある大学教授が、職業体験として新たな世界での挑戦を自ら実践することに、相当な驚きを覚えました。

-それは素晴らしいですね。なかなかできることではないと思います

今永:そうなんです。公務員や地方自治体の人たちの仕事を外側からではなく、内側から見ることも狙いだったそうです。それを聞いたときはたいへん感動しました。実際に教職員がインターンシップをすることで、学生が働く先のことを知ったり、インターシップのことを分かったり、そうしたことができるのではと強く思うようになりました。このように、教職員が就業体験を積むことは、とても重要なことで、昨今では兼業や副業・パラレルキャリアといった経験も推進される環境にあるので、是非いろんな方に挑戦してもらいたいと思っています。

-インターンシップは学生だけのものではなく、社会人も参加するようになっていくのですね。私たちもそう感じています

今永:そうですね、国は「人生100年時代」を掲げていますが、それに応じて、社会人基礎力も「人生100年時代の新・社会人基礎力」へとアップグレードされました。この新・社会人基礎力は、「これまで以上に長くなる個人の企業・組織・社会との関わりの中で、ライフステージの各段階で活躍し続けるために求められる力」と定義されていますが、以前の社会人基礎力が「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」と定義されていたものとは違って、ライフステージが追加になっているのが特長です。その中身は、「何を学ぶか」「どのように学ぶか」「どう活躍するか」という3つの視点が新たに加わっていますが、この変化はキャリア教育に深く関係するものであり、インターンシップにも関係します。こうした視点を取り入れると、社会人であっても次の会社へ転職する際にインターンシップをするようになるでしょうし、それが新しい中途採用の一つのカタチになるかもしれません。

資料:「新・社会人基礎力」(経済産業省HP)

-変わるインターンシップのためには企業の意識も変わらないといけませんね

今永:そう思います。インターンシップは学生・企業・大学が関わって行われてきましたが、3者は異なる思惑と関係性を持っています。企業はビジネスの観点を価値基準として、主に採用を目的に考えますが、大学は高等教育機関であり、主に教育を目的に考えます。そこで両者の間ではインターンシップに関する議論がこれまでも行われてきましたが、なかなか足並みが揃いません。これは営利組織と非営利組織の連携の難しさと似ています。
しかし、インターンシップには学生も関係します。私はインターンシップの主役は学生であるべきだと考えています。ですから、学生に評価されるインターンシップを創ることが必要で、それを理解すれば、自然とどんなインターンシップを実施すれば良いか、関係するプレイヤーは理解し、それぞれ大学も企業も学生のために変わっていくと思います。

―そうした想いがあって、プログラム開発室室長を務める野村と企業向けの本を出されたのですよね

今永:野村さんとは学会で出会ったのですが、お互いの問題意識がとても似ていました。 異なる価値観を持つ3者を繋げ、真に価値のあるインターンシップを作らなければならない、それができないといつまでもインターンシップは中途半端なままになってしまうと議論しました。それを解決するには企業の本音を理解し、企業が受け入れたくなる設計が必要であると。
そして時が経った頃、野村さんから企業向けのインターンシップ本を一緒に執筆しないかとお誘いがあって。MiraiShipさんは東京でIT企業やコンサル業などの先端的なインターンシップをやっている印象ですが、地方の中小企業向けのインターンシップはまた少し違った特徴があると思います。そうした双方のノウハウを融合させて、共通する部分を提示できれば、多くの企業や大学関係者のためになり、結果として学生のためになるインターンシップが多く生まれるようになる本が誕生するのではないかと考えました。結果として、企業がインターンシップを策定するための教科書・参考書のようなバイブルとなることで、インターンシップが次のステージへ行くのではないかと思って執筆しました。

―本のなかで野村は私と今永さんに触れ、若い人が新しいインターンシップを創ると述べていますね

今永:そうですね。これまでの常識にとらわれずに、将来を見据えて活動するには、若さは武器になるかもしれません。しかし、インターンシップには様々な組織や人の協力が必要です。学生のことを第一に考えて、様々な人を巻き込んで進める力が求められています。そういった点では、年齢にとらわれない新しい視点を持った人たちの協力が必要です。私は東海地区から、MiraiShipさんは東京から、これまでにない取り組みを実践することで、新しいインターンシップのカタチを広げられるのではないかと思います。そして、多くの方とご一緒できるとさらに波及していくと思っております。まだまだ未来に向けたインターンシップは始まったばかりだと思っています!

(聞き手:Mirai Ship PROJECT 主宰 眞野目悠太)

前編:日本初の経営専門職学科のプログラム
中編:20単位のインターンシップ

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